現場から問いを立ち上げる―メッシュワークが伴走した4つの実践事例
人類学的なアプローチは、企業や地域が当たり前だと考えてきた前提を問い直し、現場の細部から新たな事業や組織変革の可能性を見いだします。本記事では、昨年度メッシュワークが取り組んだ4つの事例 (患者理解、人材育成、自然環境との関係、離島振興) を通して、人類学が現場から立ち上がる問いを、どのように事業や人々の暮らしの実践へとつなげるのかご紹介します。
小野薬品工業における「n=1」の患者理解から新規事業の起点を創るリサーチ
小野薬品工業のイノベーション人財育成プログラム「Ono Innovation Platform」の一環として、ACTANTとメッシュワークが共同開発した「Systemic × Ethnography」を活用し、がん患者と家族の生活を捉えるプロジェクトを実施しました。
システミックデザインによる社会構造の俯瞰と、エスノグラフィーによる生活の細部への接近を組み合わせ、社員が患者宅を訪問し、会話や散歩への同行を通じて、言葉だけでなく、沈黙、視線、歩く速度、家族との距離感にも目を向けました。その結果、「がん患者=つらい闘病生活」という先入観が揺らぎ、診断名や統計、ペルソナでは捉えきれない一人ひとりの暮らしの厚みが見えてきました。
現場に身を浸し、記録し、構造化し、再び問いを立てる循環を重ねることで、KPIではなく「問いの質」をアップデートできたことも新たな成果でした。得られた洞察は更新可能なシステムマップとして蓄積され、患者を理解すべき対象ではなく、「ともに考え、ともに在る」存在として捉える事業づくりと人財育成の基盤として活用されています。一人ひとりの生活に丁寧に向き合う「n=1」の患者理解を、新規事業の創出と人財育成へつなげる事例となりました。
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Hondaにおける「組織の論理」から脱却し、主体性を引き出す探究型リーダー育成
Hondaの従業員向け探究創造プログラム「Minerva」にメッシュワークは人類学の視点を用いて伴走し、約1年間「未知と出会うこと」を通して、人と組織の変容を支援しました。
探究創造プログラム「Minerva」は、フィールドワークとワイガヤ※1 を軸に、Hondaがこれまで大切にしてきた創造的な企業文化をさらに深めながら、一人ひとりが自らの価値観を探究することを目的としたプログラムです。わたしたちが着目したのは、従業員が現場で得た経験を「Hondaとして何をすべきか」という組織の模範解答に置き換え、個人の違和感や熱量を失ってしまう「大きな主語の罠」でした。
参加者は「人と技術の関係性」をテーマに、狩猟、水、ものづくりの3チームに分かれながら、それぞれ現場を複数回訪問することで、自ら訪問先と交渉して探究を組み立て、フィールドと机上を往復しました。さらに、訪問後の1on1では「会社ではなく、あなたはなぜそう感じたのか」と問い続けることで、日常の小さな経験や感情を掘り起こしました。
こうして得られた「自らの言葉」は、個人的な感想にとどまらず、組織へ接続できる問いや論理へと翻訳されます。個人の感性と内発的な動機を起点に、熱量あるプロジェクトと組織変革を生み出す、人類学を活用した人材開発の事例です。
※1:個人が役割を超えて徹底的にお互いの意見をぶつけ合い、成果を出すHondaのコミュニケーション文化
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自然環境を「関係性のインフラ」へ再定義する、NTT東日本・日本総研の地域リサーチ
NTT東日本の「地域循環型ミライ研究所」、日本総合研究所、メッシュワークは、新潟県十日町市で、豪雪地帯の暮らしを捉え直す人類学的リサーチを実施しました。
従来、雪は除雪すべき「コスト」か観光に使う「資源」として語られてきましたが、本プロジェクトでは、人々の行動や文化、関係性を形づくる「人間以外のアクター」として捉え直します。無雪期と積雪期の二度にわたる調査を通して、複数の調査者が単独で町を歩いて偶然の出会いを記録する「コレクティブ・エスノグラフィー」を実践しました。
その結果、雪の「ままならなさ」を受け入れる住民の姿勢や、雪かきを通じた相互扶助、保存食、複業、除雪具など、制約から生まれた創造性が浮かび上がってきたのです。さらに、雪を克服・商品化するのではなく、地域を支える「関係性のインフラ」として再定義することで、その文化的機能を現代の持続可能な仕組みへ翻訳することができました。関係人口の量的拡大から、雪を介した地域循環の創出へと問いを深めた事例となりました。
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日本離島センターと取り組む、日常に潜む価値を見出し、発信力を高める離島振興ワークショップ
公益財団法人日本離島センターが主催する第33期「島づくり人材養成大学」に、メッシュワークは企画・運営パートナーとして参画しました。
本プログラムが目指したのは、観光客向けの特別な体験である「ハレ」をつくるだけでなく、島の日常である「ケ」に目を向け、住民自身が暮らしの中にある価値を発見・発信できるようになることです。全国の離島から集まった自治体職員や地域づくりの実践者は、グループごとに佐渡島の5地区を歩き、人々の声や見慣れた風景を記録し、その経験をZINEとして編集しました。その過程で、参加者のまなざしは、外部に何をアピールするか、地域に何が足りないかという「課題探し」から、自分は何を面白いと感じるのかという「価値探し」へと移っていきます。成果は完成した5冊のZINEにとどまらず、参加者がそれぞれの島に戻り、身近な日常から新たな実践を始めたことにも表れています。
「消費される島」から「生活を誇る島」へと、自らの暮らしを自らの言葉で語る主体性を育み、持続可能な離島振興につなげる、人類学的な人材育成の事例です。
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4つの事例に共通するのは、あらかじめ用意された正解を現場に当てはめるのではなく、人々の語りや日常の風景、言葉になりにくい違和感から問いを立ち上げていることです。
メッシュワークは、フィールドとの対話を繰り返すことで、既存の枠組みでは捉えきれない課題を捉え直し、事業や組織、地域の新たな可能性をともに探究しています。人類学的な視点を事業や地域づくりに生かすことにご関心がありましたら、ぜひご連絡ください。
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