メッシュワーク比嘉より年の瀬のご挨拶
「もっと、身体的な知を」
早くも2024年が終わろうとしています。大晦日、皆様いかがお過ごしでしょうか。メッシュワークを創業して3年目に入った今年も、おかげさまで私たちは比較的忙しく、各地を飛び回りお仕事をさせていただきました。
取材していただいたり、登壇させていただいたり、そのようにして人前に出る場面もありましたが、大半の時間は地味で地道で、文字通り汗水流してフィールドワークしていた時間もそれなりにあって、現場から離れることなくフィールドワーカーであり続けたいと常日頃から考える私としては、だいぶ望ましい形で活動できていたように思います。お仕事などご一緒させていただいた皆様、さまざまな現場で出会いお世話になった皆様、本当にありがとうございました。
人類学的なフィールドワークの価値や意義についてはこれまでにも折に触れて語ってきましたが、今年はそれについて改めて考えさせられる機会が多かった気がします。いや、さまざまな方々とご一緒するなかで気づかされた、と言うほうが適切かもしれません。一緒にフィールドワークをしているときの、あるいはそうした経験をした後の人びとの言葉の熱量や目の輝きはとても強く、会議室でモニターや付箋だけを目の前にして議論していた時点とは大きく異なってくることをたびたび感じました。もちろん現場に身を置くことは悦びだけをもたらすはずもなく、同時に混沌や葛藤などをも生みだすのですが、自らの身体というフィルターを介して世界と出会いなおす経験と、そのような経験を経て生みだされる思考のもつ力は他の何物にも代えがたいことを、みなさんの様子を拝見しながら感じました。
企業が自社工場を持つ地域と長期的な関係性を紡ぐためのお手伝いや、現場に潜む課題を抽出し労働環境改善や組織改革を行うことへの伴走など、ご依頼の文脈は異なれど、そこに生きる人びとのリアリティや各々の認識世界をフィールドワークを通して明らかにしていくことから課題をひもとき、施策へとつなげていきました。その際に私たちだけがフィールドワークをするのではなく、クライアントの皆様にも、あるいは協働していたコンサルタントの方々にも「いちフィールドワーカー」として現場に入っていただいたことが、上記のような「身体に根ざした思考」へと繋がっていったのだと思います。
人類学者も、リサーチャーも、その他のあらゆる「現場に寄りそう」お仕事の人も、本来であれば私たちの身体は、意識的にせよ無意識にせよ常にアンテナを張っていて、とても多くの情報をキャッチしているはず。そうした身体感覚と丁寧に向きあうのか、あるいはそこで察知した「言語未満」のものを余計な存在とみなして切り捨ててしまうのか。まさにその私たちの判断が問われているのだと思います。身体感覚をないがしろにするということは、身体的な知の可能性をも手放してしまうということ。ある観点においてフィールドワークとは「手間」で「非効率」かもしれないのですが、そのようにしてでなければ得られない身体的な知にこそ、無数の可能性が宿っていることを考えれば、むしろ私たちがフィールドに出向かない理由などなく、誰もがその経験を丁寧に振りかえったほうがいいのに...と心の底から思います。
そういった意図をもって、積極的に試行/思考の場を提供させていただいたこの一年でもありました。春には糸島(福岡)で、秋には甲府(山梨)で、頼れる仲間たちとともに合宿を企画し、多くの方にご参加いただきました。前者では「フィールドでの偶発的な出会いや関わりのつくりかた」に焦点をあて、後者では「フィールドワーク×プロトタイピングの往還を通した認識のアップデート」に焦点をあてています。いずれもわかりやすい正解はなく、私たちも常に、ともに、学びつづけ試しつづけています。
そう、身体といえば、今年は「生身の」インゴルド氏(人類学者/弊社名の生みの親)にお目にかかりお話しできたことも個人的には大きな出来事でした。彼はあるときからスライドを一切使わずに発表するスタイルをとっているのですが、黒板になめらかな線を描きながら、ジェスチャーを交えながら、そして手元の原稿やメモを壇上の床に軽やかに散らしながら語る彼の様子を目の前で見られたことは喜びでした。なんというか、私にとってそれはとても印象的な身体経験のひとつであり、書かれた文章のなかによりもむしろ、そのようにして語る彼の身体のなかにこそ、優れたフィールドワーカーであり人類学者であることの片鱗が見てとれるような気がして、自分もそのようでありたいなと憧れたのでした。
つれづれに書いてしまいましたが、さまざまな経験をさせていただいた今年を経て、私たちはさらに「身体的な知」を目指しながら、一歩ずつ丁寧に歩んでいきたいと思っています。みなさんとともに変わりつづけるために、私たち自身も常に現場に身を置いて、粘り強く思考していきたい。
また来年も、さまざまな方と出会いご一緒できますこと、楽しみにしております。今後とも、メッシュワークをよろしくお願い申しあげます。
どうぞ皆様、よいお年をお迎えください。
合同会社メッシュワーク
比嘉夏子
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