メッシュワークの2期目をふりかえる
メッシュワークの水上優です。年末に向かう忙しくも静かな時期が私は好きです。と書いていたのに、すでに今日は大晦日。みなさん、いかがお過ごしでしょうか。
2022年4月に合同会社化し、2023年は合同会社メッシュワークにとって2期目となりました。メッシュワークの一年の活動を振り返ります。
企業や大学に伴走する
本年は主に、共同事業開発、コミュニティ理解のための人類学的なリサーチ、研修・ワークショップの3つの軸で企業や大学に伴走してきました。
シンクタンクや組織コンサルティング企業と共同で事業開発を推進してきました。いずれもメッシュワークの企業向けワークショップを受講いただいた後に、新規事業開発に発展しました。人類学的アプローチが徐々に、着実に広がっている実感を持っています。今後もメッシュワークでは事業開発や組織改革、人材開発など、多様なビジネス上の課題に伴走していきます。
コミュニティ理解のための人類学的なリサーチでは、企業が地域との連携を始める段階での伴走や、UR都市機構とのプロジェクトをおこないました。URのプロジェクトでは、比嘉・水上が2ヶ月間団地に居住しながら参与観察を行い、そこで得た知見を団地活性化プロジェクトへ活かす貢献を行いました。
研修・ワークショップでは、弊社が独自開発したセミナー「日常と出会いなおすためのレッスン」をベースとして、それぞれの企業の要望や課題に合わせた内容を提供しています。11月には愛媛大学教育・学生支援機構教育企画室の主催で「大学職員のための観察力向上セミナー ~現場の状況を的確に把握して伝えるために~」を開催しました。
メッシュワークではさまざまな分野の方々とのプロジェクトを推進したいと考えています。人間に関わることでしたら、なんでも対象になります。気軽にご相談ください!
他分野の方々との対話
2023年は、様々な業種・分野の方々と対話ができました。比嘉は引き続き登壇の機会をいただきました。以下にその一部をご紹介します。
1月にはLINE主催のPM/UXリサーチャー向け勉強会「人類学者と一緒に考える “ユーザー理解”の可能性」にて、UXリサーチだけではこぼれ落ちてしまう「ユーザー理解」について、リサーチ現場の悩みからプロジェクトマネジメントの重要性に至るまでディスカッションしました。2月には、山梨大学と山梨県立大学主催のFUTURE EVO2023に登壇し、「<私の日常>が持つ価値に気づくために」と題した講演を行い、地域創生に人類学的視点が貢献する可能性をお話ししました。また5月にはRESAERCH Conferenceにて「持続的な営みとしてのリサーチへ—人類学的態度からの示唆—」と題した基調講演を行いました。ここでは企業のリサーチャーの方々を中心に活発な議論と対話を行い、大きな反響をいただきました。当日の様子はYouTubeにて公開されています。6月には、日本実務教育学会研究大会シンポジウムにて、名和高司先生と「学術と実務が出会うところ:知と行動の融合に向けた研究の可能性」と題し対談。研究者が実務の世界に入っていくことの重要性と可能性についてお話ししています。10月には、人類学者でアトリエ・アンソロポロジー合同会社の代表を務める中村寛先生と対談イベント「組織に新たな視点と発想を:人類学者からのヒント」を開催し、企業内で人類学的活動に取り組む方々と繋がりを作ることができました。
水上は7月に、株式会社メルペイの松薗美帆さんとデザインと人類学について対話しました。当日の様子は「接近する「デザイン」と「人類学」。企業の「自己変容」はいかにしてもたらされるか?──メルペイ・松薗美帆×メッシュワーク・水上優」にまとめられています。来場者の方と活発に議論を行い、現場での深いリサーチの難しさや、それでも人間に注目する重要性を共有しました。8月には、東京デザインプレックス研究所にて、「“日常”をしるために、問いをたてつづける」と題したワークショップを行い、デザインを学ぶ学生とともに「問い」に注目し日常を知っていくための実践を試行しました。また、デザインプレックス研究所の学校案内に水上からのメッセージを寄せております。
メディア掲載では、Forbes Japan2023年5月号「アカデミアの知を社会実装する企業」に選出いただきました。先が見えない世の中において、人文・社会科学の重要性は増していきます。メッシュワークでは現場に向きあいながら思考する豊かさを伝えていきたいと考えています。
デザインのスローメディアTDの特集であるUXのタテヨコナナメVol.3にて、比嘉は人類学的なものの見方の特性や、リサーチャー自身の視点を信じる重要性について語っています。また季刊誌『tattva』 Vol.8では、「私たちの関係をとり結ぶ、モノとしての貨幣」と題した論考を寄稿し、専門であるオセアニアの贈与や貨幣の話についてわかりやすく描いています。同様のテーマとしては、XD MAGAZINE VOL.06では「気持ちよく、受け取ってこそ。人類学者に聞く、与えるだけじゃない“贈与”の話」としてインタビューもしていただきました。雑誌『WIRED』日本版 VOL.50 特集「Next Mid-Century」の「未来をもっと多元的に描くために、インスピレーションの糧としたい厳選30作品」にて、保苅実『ラディカル・オーラル・ヒストリー』を選書、紹介しております。
水上はNTTコミュニケーションズのポッドキャスト「OPEN HUB RADIO」に出演し、前編・後編にて人類学とビジネスの可能性について語っております。NTTコミュニケーションズの共創空間を運営する福嶋さんが「社会課題」起点の限界や、人類学への鋭い疑問を問いかけ、水上が応答しています。ぜひお聞きください。
来年も多様な皆さんとお話しできることを楽しみにしております。そのほかの登壇・執筆に関してはWebサイトをご覧ください。
人類学の地平をひらく、教育・研究・探求活動
メッシュワークでは、クライアント案件とは別に人類学的な感性をさまざまな人や分野にひらいていく活動を進めています。
昨年に引き続き、社会人向けのゼミ第2期「人類学的な参与観察によって問いをアップデートするトレーニング」を開催しています。たった今、ゼミ生は個々のテーマ・問いに関して研究を進めています。ゼミ生の学びの記録はnoteや、ゼミ生の出演するポッドキャスト(前、中、後編)にて、紹介しています。人類学的感性がどのように醸成されていくのか、ご注目ください。
来年3月には東京目黒にてゼミ生の発表展示会を予定しております。詳細が決まり次第メッシュワークメールマガジンにてお知らせします。ご来場をお待ちしております。
6月から7月にかけて、専修大学・上平研究室のデザインリサーチトリップに「フィールドワークの専門家」として同行しました。学生のフィールドノートを読みながら、専修大学上平先生、KDDI総合研究所新井田さん、弊社水上の3人で座談会を行い、その様子が冊子にまとめられています。今後もデザインリサーチと人類学の新しい地平を探求していきたいと考えています。
例年、富山県立入善高等学校・観光ビジネスコース、フィールドワークリサーチ発表会に参加し、講評をしております。入善高校は人類学的なフィールドワークを教育実践に取り入れている先進的な高校です。三菱みらい育成財団にも採択され、「参与観察的フィールドワークによる地域とともに考えるコミュニティ創造者の育成」を目指し活動されています。フィールドワークによって高校生が問いを変化させていく様に、私たち自身も刺激を受けています。
本年、メッシュワークではポッドキャストをリニューアルしました。「人類学者の目」と題して「人類学者の目をインストール」するとはどのようなことかを発信しています。最新回は「ビジネスの現場から人類学はどう見える?」という題で、前述のNTTコミュニケーションズ福嶋さんをゲストとしてお招きし、お話ししています。Apple PodcastやSpotifyなど各種プラットフォームからお聞きいただけます。
社会運動としてのメッシュワーク
2023年は様々な業種・分野の方々や、別のフィールドで活躍する人類学者とのつながりが広がっていく一年でした。特に、私はデザインやアートなどものづくりを行う実践者の方々と協働できたことが印象的でした。
人類学者のフィールドでは、人と出会うことが不可欠です。そして、偶発的で泥臭いプロセスを経て人々と出会うからこそ、豊かな知恵を授かることができます。しかし、その知恵を他者に伝えるとき、一定の形に押し込んでしまうが故に、失われてしまうことが多くあると長年感じてきました。
今年、デザイナーやアーティストの方々と協働する中で、すでに規定されている構造から脱して新しい意味を構築していくこと、そのプロセスを間近で経験しました。とても個人的な経験を表現し、コメントをもらい、また表現していく。そして、アートやデザインの場合、その表現は言語だけではなく、物理的な「もの」が伴います。
我々にとってはフィールドワークや参与観察によって得た経験を従来通りのレポートや報告会に留まらない形(おそらく「もの」も含まれる)で発信し、聞き手の側を「ともにつくる」プロセスに巻き込んでいくことが重要だと考えています。今後、メッシュワークとしてチャレンジしていきたい領域です。
また、シンクタンクやUR都市機構など長期的で互いを信頼したプロジェクトに取り組む中で、担当者の方々が生き生きと変化していく様も印象的でした。
普段いかに情報を感知する感覚をシャットダウンしているのかを自覚した。感覚と向き合う意識をするようになった。
人類学者の場所への入り込み方に驚いた。「もう住んでほしい」と住人から言われている様子が印象的だった。そうだよね。こういうことが大事だよねと認識をあらたにした。
ミーティングを重ねる中で、担当者の方々の目が輝き、上記のようなコメントをいただき、我々も嬉しくなりました。ビジネスや経済活動においては、感情や感覚を排した「情報」だけがやり取りされているようにも見えます。感情や感覚を排することが常に効率的であるという主張も目にします。
しかし、どのようなビジネスであっても必ず人間が関係しており、冷たく見える「情報」も発信者や受信者は体温のある「人間」です。「経済優位性」「ストラテジー」「KPI」など様々なフレームによって見えにくくなってしまいますが、社員や消費者、生活者と呼ばれるグループの中には、悲しんだり、喜んだりする個別の「人間」が必ず存在するのです。
こうした「人間」について人間である私たちがわかっていくためには、多様な人々とともに、立ち止まったり、引き返したりすることを許容する営みが必要です。このような営みを可能にするプロジェクトや、協業関係を試行錯誤しながらつくっていきたいと思います。
まだメッシュワークは小さく、できることは限られていますが、企業や個人と協働する経験をし、少しずつ仲間が増え、着実な手応えを感じる一年でもありました。2024年は私と比嘉以外の人類学経験者や、様々な人々を巻き込んだプロジェクト、書籍刊行、イベント開催など、より一層活動を展開していきます。
人間が人間らしくあるための社会運動として、合同会社メッシュワークは来年以降も活動していきます。
メッシュワークとともに、学ぶこと協働することなどに興味をお持ちの方はこちらの問い合わせフォームもしくは、info@meshwork.jp にご連絡ください。ちょっとした相談からカジュアルな意見交換、共感したよ!という応援、お仕事のご依頼まで、お気軽にどうぞ。
皆様にとっても来年が良い一年でありますように
2023年12月31日 合同会社メッシュワーク 水上優
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